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 2017年12月18日(月)

第44回日本医学教育学会に参加

  • 2012年8月 4日(土)
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KCFMの玉木です。
先日、慶応大学日吉キャンパスで開催された第44回日本医学教育学会に参加しましたので、報告します。
日時:2012年7月28, 29日(参加日は29日のみ)
場所:慶応義塾大学 日吉キャンパス

 

【参加プログラムより】
1.モーニングセミナー?「医学教育のための医療シミュレーション」
講演者:S. Barry Issenberg
Gordon Center for Research in Medical Education(GCRME)の医学教授、Issenbergを迎えての講演。 
内容GCRMEはマイアミ大学のミラー医学部に設けられた中核的医療技術向上のための研究拠点。医学生、医師助手、看護師、救急救命士/消防士および教員向けの医学教育への先進技術の導入のために40年前に設立された。

現在は主にLaerdal社との共同研究により開発されたシミュレーションテクノロジーを用いてinternationalに事業を展開している組織でもある。特に心肺患者シミュレータのHarveyは、同センターが長年かけて制作を推進してきたマルチ機能を有すシミュレータで、血圧、呼吸、脈、心音および雑音を含むあらゆる心臓疾患をシミュレートすることが可能で、世界の多くの場面で教育に活かされている。

また、医学教育の包括的マルチメディアコンピュータ教育システムであるUMedicも30年以上前に開始され、このシステムを通じて医学生、医師および看護師に包括的な心臓病学、神経学カリキュラムを提供してきたという実績がある。これはモバイル端末で不整脈の学習ができるアプリなど、多様な教育コンテンツを含んでいる。
 
講演では、
1)シミュレーションおよびコンピュータによる教育システムの研究・開発・実施および評価、

2)学生・医師の能力を評価するためのシミュレーションベース結果判定法の開発及び評価、

3)教育及び研究に関するファカルティ・ディベロップメントプログラムの策定及び実施などの経験について語られた。
 
2.一般演題「プロフェッショナリズム」
感想個人的に興味を持っているプロフェッショナリズム教育についてのオーラル発表。大学では、あるテーマに関して法学部の学生とディスカッションすることにより、お互いにそのプロフェッショナリズムを高めるなどの報告があった。全体として、医学部の教育にも他学部との「コラボ」を導入することで、独善性を担保することなどが最近の傾向のようだ。
他にも、難しいヒューマニズム講義のアウトカムをいかに評価するか、など、各大学の試みやその工夫など参考となる内容があり、一定の収穫が得られた。
北大の宮田靖志先生の発表で、文献に習ってSEAの深さを振り返る方略が参考になった。
 
3.ランチョンセミナー?「アルツハイマー型認知症根本治療開発の可能性を探る」 講演者:杉本八郎
アリセプト開発者であり、現在も自らベンチャーを主導して新たな創薬に精力的に携わる杉本氏の講演を聴取した。
 
内容前半は杉本氏の生い立ちからアリセプトで成功するまでの話。9人兄弟姉妹の8番目に生まれ、経済的に苦労された幼少時代。そして大きくなったら苦労して育ててくれた母親に絶対親孝行しようと思って高卒で当時従業員50人くらいの小さな研究所であったエーザイに入社し、「自ら新薬3つを開発しよう」と必死で研究した。あるとき母から「あんたさんはどちらさんでしたっけ?」と聞かれたことにショックを受け、「認知症の薬を作ろう」と決意した。その他、研究者としての裏話、アリセプト開発までの苦労やそのFDA採用の秘話についてのおもしろおかしな話。
 
後半は標題のアルツハイマー病(AD)根本治療の2つ可能性についてのはなし。
AD仮説として、老人斑と呼ばれるβアミロイド蛋白の凝集塊と神経原線維変化とよばれるタウ蛋白が異常にリン酸化されてできた蛋白の凝集塊が原因物質と目されている。これらをどうして無くすか、を世界の研究者が現在血眼で研究している。

これまでγ-secretaseのmodulatorであるR-flubiprofenや、Aβの凝集抑制剤である3APS(3-aminopropansulfonic acid)といったいくつかの臨床試験の結果が公表されたが、いずれも期待されるような結果がでず、開発は中止された。
 
一方、エラン社が1999年に開発しNatureに公表されたAβワクチンの効果はおどろくべきもので、世界がその開発に注目したが、第2層試験で脊髄脳炎の発見により治験を継続することを断念した。
 
現在のところ、タウ仮説による創薬研究はあまり進んでいないが、タウタンパク質のリン酸化を阻害する薬剤の開発、さらにタウタンパク質がリン酸化されて生成され凝集するところを抑制する方法が創薬のヒントとなっている。タウ凝集抑制作用の機序をもつメチレンブルー(色素)は最近のトピックで、第3層臨床治験に入る計画がある。
 
感想こういった話の中で、ある薬剤開発において、第2、3層試験をクリアするのがどれほど大変なことか(肝障害、体内代謝速度の問題、容量依存性かどうか、試験のドーズの決め方、などなど)、などの話が大変新鮮で、面白かった。
 
4.招請講演?”Learning to Teach and Teaching to Learn; A personal approach to interactive education” 講演者:R. Harsha Rao
米国ピッツバーグ大学医学部の内分泌、糖尿病、代謝学のフェロシッププログラムディレクターであるDr.Raoの講演。慶応大学にも客員講師として招かれよく講義をするようで、日本の事情にも詳しいようだ。
 
内容日本人はお互いを深く尊敬することを重んじる文化を有し、相互の尊敬的ダイアログを形成する上で完璧な背景を持つ。一方で全知全能の教師の言うことを質問することなく受け入れてしまうという傾向が強く存在し、これが日本におけるInteractive educationを強く傷害している。日本の教育は、学生から教師に質問することがないため、「一方向性伝達」とか「モノローグ」だと揶揄される所以である。Interactive educationを行うための原則は、以下に細分される。すなわち、
 
(ア)まず何より、それはinteractive processで、教えるものと教わるものがどちらも参加している必要があり、知識だけでなく、考えや疑問、アイデアを双方向に交換するものである

(イ)教えるものと教わるものは、自分の知識基盤の境界を探求するための準備をしなければならない

(ウ)教えるものと教わるものは、応答者に質問するのと同様に、質問者にも質問しなければならない

(エ)教えるものと教わるものは質問を受けることを喜ばなければならない

(オ)教えるものと教わるものは、ミスしやすいことや無知であることに喜んで直面しなければならない

(カ)教えるものと教わるものは、相互作用がお互いの尊敬にもとづいているということ、それらは要求されるのではなく、育まれるべきものだということを認識なければならない

(キ)教えるものと教わるものは、発見の旅のパートナーであり、その関係性において、教えるものが教わるものに対して過度に謙遜したり干渉したりするような余地はない
 
感想、教えることと教わることは表裏一体であり、また「学ぶために教え、教えるために学ぶ」という連続性と教えるものと教わるものとの垣根を越えたパートナーとしての関係性の中にこそ本来の教育が根付く。歴史的な文化を超えて日本の教育をよくするためにはその実践が不可欠という、日本の医学教育の事情に詳しい演者ならではの主張であった。
 
5.市民公開講演「百歳の長寿から学んだ私の言葉」
講演者:日野原重明
「いのちとは、何か?」日野原氏が10歳の子供たちに10日に1回は全国行脚して行う「いのちの授業」でいつも行う問いかけである。いのちは見えない。ではどうやってその重さを測るのか?日野原氏は「いのちは時間である。他人のためにどれだけ時間を使ったかが、いのちの価値になる」と説く。かくいう日野原氏は若い時は、多くの医師と同様、目の前の仕事をこなすことにとらわれ、長寿者になることなど全く考えていなかったとのことである。しかし、よど号のハイジャック自験に遭遇し、無事に生き延びらえた時にはたと「いのち」について考えた、という。そして以後、本当に意義のある人生を送りたいと考えるに至った。
 
65歳を超えてからは、常に自分のミッションとは何かを考えるようになった。そして長寿のための生活習慣を意識するようになったが、これはかのウイリアム・オスラー博士の残した「習慣がつくるからだとこころ」という言葉と全く同じであることを知った。これにより、30歳の時の体重と腹囲を65歳以上になっても維持すること、1日摂取カロリーは1300キロカロリー、タンパク質は1日平均60g、肉はヒレ肉90gを週2回、魚を週5回、糖質と糖分は体重60kgを超えないように制限、新鮮無農薬野菜は大皿に1杯。

その他毎日3000歩以上歩行することや週1回のトレーナーによるストレッチ、転倒予防のため、階段では足先を上に向けて歩行する、100歳を超えてからは夜10時に就眠し午前6時の起床を原則とする、、、などなどを毎日実践している。
国際的な知識や果てしない教養から発せられる言葉のひとつひとつに重みがあり、しかもユーモアを交えた話に思わず笑いがでる楽しいひとときであった。その老いを感じさせない精力的な姿勢や態度に学ぶことは多い。
 
【その他のトピック、関心事項】
1.医学教育学会認定医制度について
毎年医学教育学会学術集会のシンポジウムの一画を担っている企画。これまでの議論経緯として、医学教育学専門家制度を構築し、医学教育における多様なニードに答えることのできる専門教育家を育成することの具体化が議論されてきている。

先の医学教育学会誌(第43巻・第3号 2012年6月)にて、「日本医学教育学科認定教育専門家資格制度創設への提言」と題した論文が掲載されている。この論文でも紹介されているように2009年にマスターコース検討委員会が我が国の医学・医療教育機関のリーダーや日本医学教育学会会員など1,831名(回答644名、回収率35.2%)を対象にアンケートが行われ、ニーズ調査とその分析がなされている。

詳細は原著に譲るが、医学教育専門家に求める資格レベルについては、世界的な大学院修士課程や博士課程レベルの資格レベルと言うよりは、認定資格レベルを求める声の方が多いという結果であった。この結果を踏まえ、医学教育学会専門家育成検討委員会では、修士課程創設を目指すことと並行して、学会認定の医学教育専門家資格を修士課程の一つ手前の専門家資格として創設することの検討が開始された。
 
そして、現段階では、その教育能力を担保するためのプログラムがいろいろな確度から検討され、その内容が徐々に明らかになりつつある。私自身、この認定専門家資格を有したいと希望しているが、そのためには、
1)教育計画の立案と分析、教授と学習、評価、の3つの領域についての1泊2日ないし2泊3日のコースワークを受講し、
2)認定用ポートフォリオの提出を行うことが要件となっている。早くそのような資格制度が開始されることを熱望する次第である。
 
2.その他、各演題などで引用された参考になりそうな文献

(ア)外来患者における教育手法SNAPPS
SNAPPS: a learner-centered model for outpatient education.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14507619
 
(イ)上述した、懸田賞を受賞された西城先生の論文原著
Can Japanese students embrace learner-centered methods for teaching medical interviewing skills? Focus groups.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21275536
 
(ウ)上述した北大の宮田先生が学生のSEAの深さを測る上で参照した文献
Experiential learning in women’s health: medical student reflections 
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=Carr%2C%20med%20educ%2C%202006
 
【所感、大会参加を終えて】
・今回で4年連続、計5回目の参加になる医学教育学会。毎年演題登録を目標としている学会の1つであったが、今年は期日の認識不足で登録ができなかったため、寂しい参加となった。
 
・夜行バスで早朝に現地入りしたため、眠気を感じつつ訪れた会場、日吉キャンパスだったが、まずその自然と共生しており、綺麗でお洒落な建物に参加意欲が湧いた。
 
・例年の傾向ではあるが、どうしても参加者や発表者は大学主体となるため地域の病院で指導する立場である人の参加はマイノリティになることに少しさびさを感じた。
 
・内容的には、今年は教育的なセッションや先進的な研究を報告するセッションが例年に比べ少なかった印象。また、発表演題において例年との変化として、東日本大震災を経て、被災地医療の実践からプロフェッショナリズムを考える、といったテーマの発表が増えたのも時勢を反映していると感じた。
 
・一方で教育研究の中には、質的研究の発表が増えてきている印象。個人的には、早く一度質的研究の第1歩を踏み出したい、と感じた。
 
・各演題発表テーマを見ていて、今後の発表材料にフィットするとするとSPさんとの活動報告やSPさんとの共同研究が狙い目か。他の狙い目としては、「地域医療実習を終えた初期研修医の地域医療に対する考え方の変化」、「コミュニケーション技術のスタッフへの教育を通じての成果」、「倫理カンファレンスによるスタッフのプロフェッショナリズム教育効果」、「女性医師、看護師復職支援についての方略・実践とその成果」など。
 
・医学教育学会は他職種や学生の参加も積極的な限りある学会のひとつである。今年は、看護や薬剤師からの発表も目を引いた。来年以降は教育に興味のある他職種を誘って参加してみたい。
 
以上